奏で桜
何故か突然、僕の心は高鳴った。


以前の彼女のように
突然、優美に微笑んだから、
驚いたのだろうか?

彼女の真剣な眼差しに
不意に驚いたのだろうか?


…いや、違う。
それだけはわかる。

しかし、それしかわからなかった。
何故…僕は今、
どきっとしたのか。

何故、彼女を想うと
こんなにも胸が苦しく
押し潰されそうになり、
こんなにも呼吸が乱れるのか。


この頃の僕には分からなかったのだ。


そして、それは〝感情世界の迷宮〟の
始まりにすぎなかった。
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