イケメン御曹司に独占されてます
そう悪戯っぽく言われ、ドキリと胸が跳ねた。

池永さんが私の部屋に!?

ワンルームのこじんまりした小さなテーブルに、池永さんと向かい合わせで座るイメージが頭の中に浮かぶ。

ダ、ダメだ。そんなの。

先週からずっと、部屋の掃除もままならない生活が続いている。特別荒れているわけではないけど、どうせ池永さんに来てもらうなら、もっとちゃんと綺麗にした部屋にせめて何か手作りのものでもてなしをしたい。

昔から料理を作ったりお菓子を作ったりするのは好きだったし、一人暮らしのワンルームとはいえ最初のボーナスで思い切って買った高性能なオーブンだってある。

その気になればちょっとしたカフェくらいの料理を作ることだって出来るし、花だって飾って——。
そう考えが巡って、そこで初めて自分の思考に愕然とする。


もてなし? 池永さんを? まるで……彼氏を家に招くみたいに?


不思議そうに私を見つめる池永さんから挙動不審に視線を泳がせると、十メートルほど先に暗闇に浮かび上がる自動販売機が目に入る。


「あのっ! きょ、今日はもう遅いですし、へ、部屋だって散らかってるしっ……。コーヒーを買ってきますっ。ちょっと待ってて下さいっ!!」
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