私の小さな願い事
文久 三年 春

檻の中

外に出よう!!

誰にも見つからないように、コソコソ…


「お依里(ヨリ)様?」


そう呼ばれて、ビクリと肩をあげる私


「まさか……」


そこで、言葉を止め

小さく固まる私に目線を合わせ


「なりません!!」


ビシッとおでこを弾いたのは

私の世話役女中 優


優という、名前の割に優しくない


「さっ お部屋にお戻り下さい!!
まったく!!少し目を離すとコレ…
ふらふら ふらふら
徳川家の姫君が、ふらふらと外を歩こうなどもっての外!!
よろしいですか?
貴方様が、京に来たのは、婚礼の為!!
お庭に出る時も、一人でふらふらは
なりませぬと申し上げたばかりなのに
また、ふらふらと!!」



はっきり言って、優の説教は説得力がない

やたら出てくる〝ふらふら〟が気になって仕方がないから

長く続いた説教が終わると

部屋に、ぽつんと一人になる




私は、この瞬間が死ぬほど嫌いだ








江戸にいる頃から、私は何度か外に出るべく奮闘したが、だいたい庭に出る前に捕まる






私は、喋ることをやめた

一日、一人でいるようにした

三人いる女中のうち、二人は

「手の掛からない姫君で、物足りない」

と言う


優だけは、私の逃亡をいつも阻止しているから、とんでもない姫君だと…
迷惑だって、思っているはず

天子様の妹君が兄 徳川家茂に嫁ぎ

私、依里が天子様の御子息に嫁ぐ

そんな話が決まり、京に連れてこられた

ものを言わぬ私を皆が気味悪がる

だけど、私の言葉になんの意味があるの?





私はここを出たい!!





そんなことを言ったところで

誰も私に取り合ってくれるはずもない










私は、ここから出られない







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