私の小さな願い事
ここから出られないのならば

言葉以前に自分の存在理由すら






一日、ジー-ーーーーッと

畳とにらめっこ


「お依里様、琴を弾きますか?」


私は、静かに首を横に何度か振る


「一日ずっと、そのようにしておられては
気分が晴れませぬ
少し、庭を歩きますか?」


先ほどと同じように、首を横に振る


「毎日、脱走に頑張っておいでなのに
私の誘いはお断りになりますの?」


私の顔を覗き込む

優の表情は、とってもさみしそうに見えた



そんな表情をさせているのは、私



優から、目を反らし、立ち上がると

特に用はないけど、文机に向かう


私の文机は壁にぴったりつけているので

私の視線は、壁



畳から壁に変わっただけ

どちらも見飽きたけど


他に見たいものがない




「お依里様、何かお召し上がりたいものは
御座いませんか?」


首を横に振る



京に来てから、空腹を感じない

一日、座っているだけなのだから


昼間
ゴロンと横になり、天井を見るのは
はしたないから駄目と言われている


だからといって、特別上手い訳でもない

琴を弾く気にもならない


兄以外、文を書く相手もおらず


仕方なく、壁を見ている


つくづく思う


私がここにいる意味ってなに?


私がこんな様子だから、嫁入りも拒まれているそうだ


それは、申し訳ないがありがたい


だって



今でも自由がないのに、しきたりだらけの

所に私なんかが、嫁入りして

耐えられるきがしない



いっそのこと




諦めがつくように、本物の檻の中に入れてもらいたいくらいだ






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