私の小さな願い事
~慶喜~


体調が優れぬ

依里が脱走してから

少しずつ悪くなった

もう…… 一年か……



月を見上げ

依里を思い出す

かぐや姫……


依里は、月に帰ってしまったのか?


なぜ、見つからないんだ

 
自ら手放した

嫉妬に狂い、命まで取ろうとした


それなのに… 依里に会いたい


依里に…




思えば… 新たな側室を迎えてから

おかしくなった


一年もたち、体調が悪くなって、やっと

冷静になれた








翌朝



「お食事をお持ちしました」

側室が持ってきた


この側室の懐妊を聞いたときは、嬉しかった


しかし……


それが、嘘だとわかり


多津は、首を吊ったのだ



布団から起き上がる


シュタッ


「へぇ~ そうやって毒づけにしてるの?」

それは、依里の声だった

目の前に…天井から降り立った

顔を隠して、男装

藤原孝頼の姿


「くせ者!!」

「くせ者ってのは、あんたのことだよ」


懐から刃物を出した側室に、体術で意識を奪う

「痩せたね……」

まるで感情がない口調




そして、将軍職から退くことをすすめられ
大政奉還をするように言われる

「天子様は、難色示してらっしゃった
だけど…
慶喜様、貴方には将軍でいて欲しくない」


「わかった……」


「これで、命を狙われることもないわ
信用出来る側室以外は、切り捨てることね」


「依里…」


「触らないで」


「すまなかった…」


「別に……恨んでない
多津のお墓参りをしたいの」

「案内しよう」



多津の墓に手を合わせる
依里もまた、自分を責めているのだろう

「ありがとう」

多津へ感謝の言葉を言い立ち上がる


「ついて来て」

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