私の小さな願い事

花嫁修業

「久しぶりだな、依里
息災であったか?
   …相変わらず、喋らずか?
はっはっはっ もったいない!!!」


何がもったいないのか

何がそんなに笑えるのか

上座にいる兄は、とても嬉しそう



「依里!!勝負しないか?」




こんな意味のわからないことを
突然に言い出す

この兄が将軍だなんて…


にこにことお日様のような笑顔


私に似た顔


いや、私が兄に似たのか…


そんなどうでもいいことを考え


畳に視線を落とすと


私の前に兄が座った


グイッと強引に顔を上に向ける


「ぷっ」

私は、思わず笑ってしまった

だって、ものすごくヘンな顔だったから


「依里の負けだ!!少し外を歩こう!!」


少し笑って、頷く


久しぶりに外を歩くと風が冷たく


見上げるとお日様が暖かい


どっちつかずの心地よさを


目を閉じ、味わう


「俺を恨んでいるか?」


また、意味のわからないことを言い出す兄

静かに首を横に振る


「縁談だが… 断れそうにない」


天子様の御子息がお相手なのだから

断る輩はいないはず


「それとなく、お断りしてみたんだが…」


私の胸がドクリと音を鳴らす

私の為に、兄の立場が悪くなってしまう


「すまんな」


なのに、兄は私への謝罪の言葉を口にする


「依里… 
この城の中で、お前の居場所はあの部屋だけではない
こうして、外に出るとそこも
依里の居場所になる
だが、城より外に出すことは出来ぬ
外に依里が行ってしまえば、もう…
会えぬやもしれん
依里は、外の暮らしに慣れているから
そちらの方が、いいだろうが
俺は、依里を独り占めしたいのかもしれん
許してくれ… 
依里が妹で、俺は凄く幸せなのだ」


私こそ、貴方様が兄でよかった

こんな私を大切にしてくれる


「黙っていなくなったりしないでくれ…」


どうして気がつかなかったの

兄は、ずっと檻の中で育った

外に出ようという気持ちさえ、檻の中

私は、自由に楽しくお気楽に過ごした

兄は、生まれた頃から、色々な重圧と戦ってきたはずだ

このような若さで、将軍だなんて

「依里…」

「兄上、私…花嫁修業をします」


兄のような、お日様みたいな笑顔は出来ないけれど

精一杯の笑顔で、久しぶりに言葉を発した


申し訳なさそうに、少し笑って

「ありがとう」

今度は、私に感謝の言葉をくれた



兄の為に、この檻を受け入れることにした












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