私の小さな願い事

後遺症

~依里~



目が覚めた…… のに……

真っ暗闇


何度瞬きをしても、変わらない





それに、静か……







重く鈍った体を起こす


立てそうにないので、四つん這いで廊下に

出る


そこで気がついた

私は、目が見えない

おまけに耳が聞こえない


でも…… 生きてる



ふとお腹に張りを感じた


もしかしたら、お子が?


嬉しい



廊下に伝わる足音の間隔から、慶喜様だと
わかる


この状態をどう伝えたらいいかしら?

慶喜様が私を抱きしめ

ほほに手を添えた


「あったかい」

言ってみたけど…

自分の声も聞こえない


今の刻限すらわからない


「あの…慶喜様?私、目が見えないの
耳も聞こえないの
一方的に喋ることしか出来ないけど…
お子がいるようなんです
だから、多津を呼んでもらえませんか?」


しまった

返事をどう聞けば……


そうだ!!


右手を慶喜様の方に差しだした


「呼んで下さるなら、○
駄目だと言うなら、×を書いて」


少し待ったけど

返事がなくて


「ああ!!慶喜様に内緒だったわ!!
私ね!多津と仲直りしたの!!
ちょっと待って下さいね!!」


文机の方に這い、手探りで文を入れている箱を出す


「御正室様と多津からの文が入っております!ご覧下さい!!」

「慶喜様…私は、子が泣いてても聞こえない
おしめも変えてあげられない
優も身重ですし、腕のある多津が来てくれたら、助かります!!」

再び、右手を差しだした

慶喜様が私の手を取り、○と書いた


「よかった!!これで、安心です!!」



自分がちゃんと、話せているのか

わからないが、○をもらえたのだから

伝わったんだろう


嬉しい





< 85 / 153 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop