私の小さな願い事
口にしてすぐ、手から湯呑みが落ちた


「この女中を捕らえろ!!」

「あははははっ!!ざまぁ見ろ!!
この女が気がつかなければ、三人いっぺんに、やれたのに……」


「依里!!依里!!しっかりしろ!!」

「医者を呼べ!!!」


瞬きを時々しているが、東宮様、慶喜様の
必死の呼びかけにも反応なく

また、苦しむわけでもなく

だんだん体の自由を奪われているようだ

医者が来た頃には、瞬きもせず

開いたままの目で、一体何を見ているのか

不思議な程だった


医者がそっと目を閉じさせた


そして、残酷な一言を言った


「解毒することは出来ません
回復は…  望めません
申し訳ありません」


この医者が悪い訳じゃない

だけど、他に八つ当たりする奴がいない


「なんか治療しろよ!!診ただけで、諦めんじゃねぇ!!こいつは、丈夫なんだよ!!
ガキの頃から、俺が鍛えたんだ!!
屋根から落ちても、怪我しねぇし!!
喧嘩は、負けねぇ!!
新選組の妹を見殺しにして、タダですむと思うなよ!!」


「むむむむ、無茶言わないで下さいよぉ
こんな状態になる毒なんて、知らない!」

「俺からも頼む!!」

「頼む!!」


慶喜様と東宮様が、医者に頭を下げた

「では、何の毒か聞き出して下さい
その間、無駄でしょうが
解毒作用のあるものを試してみます」



依里……

お前の為に、こうして、頭を下げてくれているんだぞ?


馬鹿野郎


毒だって、わかってて飲む奴がいるかよ!


優になんて言えばいい?


東宮様だって言っていただろ

依里の代わりなんて

そんなのこの国中捜したっていねぇ



馬鹿野郎!!さっさと目を覚ませ!!







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