私の小さな願い事
~慶喜~



「どうして、すぐお帰りになるのです?
依里様が、不安がっておいでです
何かやましいことでも?」


優のことを多津に話した

多津は、良くしてくれている


「そんな大切なことを隠すなんて……
依里様なら、大丈夫です!!
きちんとお別れさせてあげるべきですよ!
お墓の場所まで、私が手をひきます!
明日、行きましょう!」

「子が生まれてから言おうと……」

「お子の為にも、依里様に必要なことです
明日、依里様が死ぬならお別れを言う必要もないでしょうが、依里様はこれからも
あのように暗闇でも、音がなくとも生きるのです!!
これ以上の不安があってはなりません!
あんな様子で、出産すれば
依里様も!お子も!お命を落とします!」


「耐えられるだろうか……」


「耐えますよ!!母なのですから!!」


「わかった…… 今から、話そう」



多津と依里の部屋へ





なるほど……

俺は、依里の後ろにいることで目をそらしていたが、こんなにも不安がっていたか

「すまん」

「聞こえませんよ」

「あぁ……不便なものだな……」

「不便なのは、私達でなくて、依里様です」


気づかされてばかりだな


依里を前から、抱きしめる

長くそうしてなかったなと思う


「慶喜様… 私… 三下り半ですか?」


「馬鹿」

「聞こえませんから」


依里の後ろに回りこみ

〝ばかやろう〟

「まだ、置いててくれるの?」

〝ずっといっしょ〟

「うん」

〝だまっていたことがある〟

「それ、悪いことでしょ?
慶喜様… 優… どうしてる?」

〝しんだ〟

依里が震えている、泣いている

「まさか……って、思ってたの
だって、慶喜様何も話してくれなかったから…… 良くないのかなって……
だけど、こんなになった私が会いに行けば
それこそ、悪くなると思って……」

〝あした あいにいこう〟

「いいの?行きたい!!」

〝いこう〟



「ずっと、我慢してらっしゃったのね
心配の種になりたくないからって
依里様は、お優しい
自分が大変なのに、そんな気遣いして」


多津も泣いていた







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