君と、美味しい毎日を
「大介先輩、ちょっと聞いていいですか??」


ぼんやりと過去を思い出していた俺に、いかにも女の子といった甘い声が呼びかける。

いつものサークル飲みがお開きになって、バラバラと駅に向かって歩き出していたところだった。

えっと、一年生のマミちゃんだったかな。たしか今年入ったメンバーで一番可愛いって言われてたな。
三年にもなると後輩も増えてきて、なかなか顔と名前が一致しない。


「昴先輩と白咲先輩ってなにかあるんですか? 昔付き合ってたとかそういう何か」

「えっ、なんだよ。急に。 何でそんな事思ったの?」

動揺して思わず声が上擦ってしまった。
あの二人、サークル内ではほとんど喋ってないのにやっぱり鋭いやつっているんだよなー。

「だって昴先輩って白咲先輩の飲み物追加するとき、何も聞かないんですよ〜。
勝手に選んで勝手に頼んでるの」

「ん? ビールとかサワーとか勝手に頼んで渡すじゃん? 普通に俺もやってるけど」

俺はごまかそうと必死だ。

「昴先輩は女の子には絶対、何にする?って聞く人なんですよ!
それに、白咲先輩に頼んでたの梅干しサワーですよ。梅酒ならともかく適当に頼むものじゃないですよ〜」

マミちゃん、可愛い顔してすっごい観察眼と推理力だな。

「瑶ちゃんは優しいからさ。
何でも飲んでくれてるんだよ、きっと」

「私もそう思ってさっき白咲先輩に聞いてみました。 そしたら、ビール2杯のあとは梅干しサワーが好みなんだそうです」

行動力もすごいなー。

「んじゃ、久我原も何かの時にそれ聞いて覚えたんじゃない?
深く考え過ぎだよー」

「そこですよ、白咲先輩の好みを覚えてるってのが悔しいんですっ」

素面なのか酔っ払てんだか、よくわからないマミちゃんをなだめて追い払った。

ふわふわと揺れるスカートが遠ざかっていく。

「あの子、法学部だっけ。 いい検事になれそう・・・」

俺は思わず呟いた。



翌日、学食でラーメンをすすりながら久我原に昨日の話を聞かせた。

「あぁ、マミちゃん。可愛い顔してるけど、なかなか策士だよね。
うっかりデートさせられそうになったこと、何度かあったな」

「いや、問題はマミちゃんじゃなくてさ、お前と瑶ちゃん。
人に言いたくないから、お前もうちょと他の女の子と同じように扱えよ」

久我原は心外そうな顔を俺に向けた。

「俺、アイツを特別扱いなんてしてないだろ。 むしろサークル内で一番関わり薄いと思うけど・・・飲み物の好みなんて、何度か飲んでれば普通に覚えるだろ」

たしかに久我原は瑶ちゃんの好みを正確に覚えてる。

お酒はビール2杯でそのあとは梅干しサワー。

烏龍茶や緑茶よりジャスミンティーが好き。

ホットコーヒーはミルクだけ。

だから瑶ちゃんにはいつも何も聞かない。



「俺、飲み物買ってくるけど、大介も何かいる?」

「あ、飲む飲む。コーヒー買ってきて」

了解と言って、久我原は立ち上がる。

そして、思いついたように尋ねる。

「ブラック? 砂糖あり?」

「ーーーブラックで」

俺が久我原の前でコーヒーを飲むのは初めてじゃない。何度かあったと思う、何度かね。


マミちゃんはなかなか鋭いけど、二人と丸2年付き合ってる俺しか知らないことがもう一つある。

瑶ちゃんが久我原に料理をよそうとき、
ピーマンは絶対に入れない。
久我原は気づいてないみたいだけど。




「昔、家族だったことがあるけど今はもう何の関係もない」と久我原は言った。

「思春期の一番微妙な時期だったから、ちっとも打ち解けられなかったんだ」と瑶ちゃんは言った。


「向こうは嫌いだと思うから」

そう呟く二人の顔は今にも泣き出しそうだった。














































































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