君と、美味しい毎日を
02.ビーフシチュー
「初めまして、瑶ちゃん。
久我原 悟と言います。こっちは僕の息子の昴。 瑶ちゃんと同じ小学校5年生だよ」

テレビに出てくる俳優みたくかっこいいおじさんとおじさんにそっくりな綺麗な顔をした男の子。

よく行くファミレスよりずっと高級そうな洋食屋さんで私は初めて彼らと対面した。

子供ながらに、お母さんに恋人らしい存在がいるのは何となく気がついていた。

パンツスーツばかり着ていたお母さんがワンピースを選ぶようになったこと。
誕生日の翌日にパールのイアリングを付けて嬉しそうに鏡を眺めていたこと。
週末に家を空けることが増えたこと。

どうして?とは一度も聞かなかったけど。

私にはお父さんがいなかった。
多分、生きてはいるんだと思うけど、
周りにはお母さんに言われたとおり亡くなったと説明していた。

叔母さんからこっそり教えてもらったところによると、お父さんは別に奥さんと子供がいるらしい。
だからお母さんは結婚せずに私を産んだ。お父さんが私の存在を知っているのかどうかは、叔母さんにもわからなかった。

「経営コンサルタントっていうんだけど、社長さんのお手伝いをする仕事をしてるんだ」

おじさんは私にそう自分の仕事を教えてくれた。
経営コンサルタントの意味はわからなかったけど、立派な仕事でお金持ちなんだろうという事は想像できた。

お母さんは弁護士だった。
すごく忙しいけど、うちだってお金に困ったことはない。
私のことはたくさんのシッターさんが育ててくれた。
たまに嫌な人もいたけど、大抵は優しい人達で私はそんなに不幸ではなかったと思う。


それでも、お父さんや兄弟という存在に憧れはあったから目の前の二人が私の家族になってくれるなら嬉しいなと密かに期待していた。

私はその洋食屋さんでビーフシチューを頼んだ。
ビーフシチューはカレーやホワイトシチューに比べると大人な感じがして、私の好物だった。

パリッとした制服を着たウェイターがホカホカのビーフシチューを運んできた。
白とコバルトブルーの綺麗な器に大きなお肉がゴロゴロ入った大人の食べ物。

運ばれてきたビーフシチューは二つあって、一つは私の前に、もう一つは男の子の前に置かれた。

私はそれがすごくすごく嬉しくて、舞い上がるような気持ちになった。

この子もビーフシチューが好きなのかな??
こんなに種類のあるメニューから同じものを選ぶなんてすごい。

仲良くなれるかも知れない。
私達は仲の良い兄妹になるのかも知れない。
























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