イジワル社長と偽恋契約
「元々親父のコネがあって大手に入社出来て、そのまま出世コースで若くして副社長にまでなったから…」


お父さんのことを思い出しているのか、旭さんは少し寂しげな表情をしていた。


私は宏伸社長が息子の旭さんの為に、コネで大手の兄弟会社に入社させた事を今初めて知った。





「次期社長なんて言われてたから…必死だった。親父の顔もあるし、何とか松葉ホームを今よりも良くしたくて色々やったよ」


当日の旭さんのその行動は、なんとなく想像できる気がする。

彼は仕事になると人が変わる人だからね…






「最終的に俺がキープとしてかけたのが結婚。そこそこいい所の人と結婚すれば、会社の為にも有利だと思ったんだ。だから広告代理店グループ会長の孫娘で、父親もグループの建築業界の社長である恵さんに目をつけて婚約まで結んだんだよ」

「最低ですね」


それって…あくまでも恵さんは会社の為だけに婚約したって事だよね。

愛なんて全くないじゃん…





「あの頃はおかしかったんだよ。周りなんか見えていなかったし自分の事しか考えられなかったんだ。親父が死ぬまでな…」


旭さんの表情が曇る。

すごく後悔しているような…そんな顔だ。





「親父が死んだ時…松葉ホームの社長は俺を白鷺ハウスを継ぐようにと自ら勧めてくれた。親父の遺書のこともあるけどそれが一番いいだろうからって…普通だったら有り得ないことだけど、快く承諾してくれた」


きっと松葉ホームとしても、将来は旭さんが一番の社長候補だったはず。

それなのに兄弟会社とはいえ、うちに旭さんを来させるなんて…

松葉ホームの社長は噂通り心の広い方なんだな。






「遺書を見た時に…親父が俺を松葉ホームにコネで入社させてくれた意味がわかったよ。きっと親父は俺に白鷺ハウスの社長を任せられる人材になって欲しかったんだろうな。だから他社で学ぶ期間を与えてくれんだじゃないかって」


旭さんはソファーに深く腰掛けると、天井をぼんやりと見つめながらお父様の事を考えているように見えた。
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