妖しの姫と天才剣士



風の通りそうな窓際によって座る。その間もさゆは抱き上げたままだ。



「んっ……そう……じ……」



幸せそ〜に頰を緩めながら寝言をぶつぶつ呟くさゆ。


なんだか無性に腹が立ってその頰を抓った。



「んぐぅ」



それでもまだ目を覚まさない彼女を膝に置いて僕は窓から外を見る。


幾分か涼しくなったとはいえまだ暑い。


それでも夜風に当たっているのは気持ちが良かった。


向こうの部屋の喧騒も今では気にならない程度に僕の意識からは抜けていた。


満月に店に出された数々の提灯の灯りはなんだか寂しさを感じる。


どうせならこの月、屯所で見たかったな。


そこなら余計な灯りもなく真っ暗な空だけを見ていられるのに。


僕の膝の上で何度も寝返りを打つさゆの頭に刺さっている簪を抜いていく。


そうしないと寝返りをする度に僕の体に刺さってたまらない。


サラサラな髪から豪華な簪を抜く度にはらりと髪がこぼれ落ちる。


その髪を撫でているといきなりさゆの手が被せられた。



「や……ぁっ、だめ。行っちゃ……っ! 私を、独りにしない…………で……」



頭を振って目尻に涙を浮かべたさゆ。


悪い夢でも見てるのかな。



「そう……じぃっ!」



薄く目を開けたさゆは悲しげに顔を歪ませ、


またその目を閉じた。



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