妖しの姫と天才剣士
今度こそ何も言わなくなったさゆ。
それでもとめどなく涙を流し続けているさゆに不安は絶えなかった。
「また……目覚まさなかったら……」
あの一月は本当に地獄だった。
人の生き死になんて特に気にしてもいなかったのに、さゆが死んだかと思うだけで心が潰れるかと思ってしまうくらいに。
誰も何も言わなかったし、聞かなかった。
ただ、その分僕が知らないことを教えてくれることもなかった。
土方さんなんか絶対知ってるのに聞こうとするとさりげなく買わされてしまうのだ。
死んだように眠り続けるさゆを毎日毎日、目を覚ましますようにと願い続けた。
一日一日が長く感じる。
自分の不甲斐なさに苛立ち過ぎて近藤さんたちにどれだけ迷惑をかけたことか。
目を覚ました時の喜びを君は絶対知らないでしょ?
「沖田……」
ボソッと姓で呼ばれて目を瞬かせる。
「大好き」
寝言だとしても、僕は幸せだと感じる。
大切な人と一緒に居られるのだから。
「僕も好きだよ。大好き」