王子様はハチミツ色の嘘をつく
「お義姉さん、あの……」
そのとき、弟の隣にいる志穂ちゃんが遠慮がちに声を上げ、私はハンカチをどけて首を傾げた。
そういえば、なんとなく最初から志穂ちゃんの表情が暗いような気がしていたんだけれど、どうしたんだろう。
「私、ずっと、謝りたかったんです……。私が浩介くんと結婚してこの家に住まわせてもらうようになってから、お義姉さんの帰る場所、奪ってしまったんじゃないかって……」
「な、なに言ってるの志穂ちゃん」
咄嗟に顔には笑顔を張り付けたけれど、胸の中は少し動揺していた。
……実は、彼女の言うことは図星なのだ。
結婚する前からうちにはよく遊びに来ていた志穂ちゃんは、幼いころにご両親を亡くしているらしく、うちの両親をすごく慕ってくれていた。
そして両親も志穂ちゃんを実の娘のように可愛がっていたから、子どもが生まれたときのことも考え、結婚と同時に我が家に同居することになった。
私はそのとき就職で家を出ていたから関係ないのだけれど、それでも数か月に一度は顔を出していた実家に、あまり寄り付かなくなってしまった。
両親も、弟も、志穂ちゃんのことも私は好きだけれど、いつも一緒にいる彼らと離れて暮らす私の間に何か溝ができてしまったように思い込んで、それを肌で感じるのが怖かった。
だから、余計にうれしかったんだ。さっき、お父さんとお母さんが、私に掛けてくれた温かい言葉が。