フルブラは恋で割って召し上がれ
こ……腰が痛い……。
東京から9時間ちょっとの長旅を終え、私はへっぴり腰で助手席側のドアを開けると、ヨロケながら大地に踏み立った。
建物がひしめき合って立ち並び、たくさんの人が行き交う都会の喧騒なんて、どこか別の国のことみたいにのんびりした牧歌的な風景。
心地よい風が頬を撫でて、すぐ近くの木々からは鳥たちの楽しそうな鳴き声が聞こえてくる。
あ、遠くに見えるあの山……、あれが有名な岩木山かな?
――和也、私は今、青森の自然に抱かれています。
想定外の現実に心が追いつけなくて、魂が抜けたように周りの山々をぼんやりと見ていると、車の方からマネージャーの私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「荷物。早く家の中に入れて。挨拶が済んだらすぐに現地に向かう」
「あ。は、はいっ」
トランクから出されたキャリーバッグを受け取ると、私は建物に向かって足早に歩いて行くマネージャーの後を追った。
駐車場から建物までは舗装されたところが無く、全部が所々に草の生えた地面だからキャリーバッグのキャスターがうまく廻ってくれやしない。両手で取っ手を持ち、『こんなに荷物、詰め込んでこなきゃよかったー』って後悔しながら、身軽に歩くマネージャーの背中を恨めしそうに睨んでやった。