フルブラは恋で割って召し上がれ
 
 楽市に転職してからは、休みも合わなくなってきて。
 それでも、夕方からのデートや、ご飯を作りに行ってそのままお泊りでなんとか二人の時間を作ってはきたんだけれど。

 最初のうちは、「今週は和也と休み、一緒だよ」ってメールすると、

「杏花の仕事、大変なのわかってるから。無理しなくても大丈夫だぞ? 逢えるだけでも嬉しいんだから」って言ってくれていたのが、「別に俺に合わせなくてもいいよ?」に変わって、そして「もう会うのよすか?」の最終形。

「会うのよそう」ってきっぱり言わずに、いつも私に決めさせようとするのが、ズルいところ。


 でも、その間にしっかりと二股かけられてたんだなぁ……。

 俺は頭下げてばかりの営業マンなんかで終わらない。役職について会社を動かすくらいの男になってやる! ってのが和也の口癖だったけれど、仕事の実力じゃなく女絡みでステップアップしようとするのが和也らしいっていえばそうかもしれない。

「そっかぁ、あの常務の娘さんと……。和也、出世したいって言ってたからなぁ……」
 
 短大卒業した後、親のコネで受付嬢になったっていずみから聞いていたけど、まさか彼女が和也の新しい彼女とは思ってもみなかった。

「どうせあんたのことだから、迷惑だ、もう会わないって一方的に言われても文句も言わずにいたんでしょ?」

「……うん。最後にちゃんとお別れしたかったんだけど、断られちゃった。――もう、いいの。和也とはもう終わり。この話も、もう終わり。さ、飲も飲も。あ、焼き鳥追加する?」

 明るく振る舞う私を、いずみは頬杖ついて呆れたような目で見てる。実のなくなった焼き鳥の串を手首をくるくる回しながら魔法の杖のように振りながら。

「杏花がそれでいいなら私は何も言わない。――でも、杏花。付き合ってる男がなにをしても許すなんて金輪際やっちゃダメよ。そんなの彼女でも恋人でもなんでもない。――母親よ」


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