フルブラは恋で割って召し上がれ
「これ、夏目さんが全部作ったやつ?」
「はい。楽市でいろんな種類の果物が手に入るのでレパートリィも結構増えたんですよ」
「それはいいことだ」
うんうん、と感心したように頷く斎藤氏。
「持ってきたのはりんご、ですね?」
「あぁ、何が適しているのかわからなかったので、さっき君が持っていたのと同じなら大丈夫かと思ってね。ブランデーは買ってこなかったんだが……」
「大丈夫です。買い置きがありますから」
そう言って私は食器棚を開けて新品のブランデーを取り出した。フルブラ用に常備してあるってマネージャーに説明したけれど、ここ数日は、失恋のヤケ酒になっているとはさすがに言えず、黙っておくことにした。
「作り方はすごく簡単です。まず、りんごをきれいに洗います」
自分が買ってきたりんごがゴシゴシと水洗いされているのを、腕組みしながら神妙な面持ちで頷きながら見ている斎藤氏。何も言わずじっと見られてるのって、気が散ってちょっとやりにくいんだけど、ちゃっちゃと済ませてしまおう。
「次に、りんごをカットします。くし形にきれいに四等分。このときに、種と芯は取ってくださいね」
「種と芯は取る、うんうん」
「そして、こちらの漬け込み瓶にりんごを入れて……ブランデーを注ぎまーす」
とくとくとく、と滑らかな音が耳をくすぐり、芳醇な香りが気持ちをワクワクさせてくる。う〜ん、幸せなとき……って、斎藤氏が側にいるのに、ついついいつもの調子でうっとりしてしまった。
こほん、と小さく咳払いして漬け込み瓶の蓋を閉め、
「これで作り方は終わりです。3日くらいたてば飲み頃になりますよ」と、瓶を斎藤氏に手渡す。
「随分簡単に作れるものなんだな。手順さえ覚えれば、だれでも美味しく作れる、というわけか」
チッチッチッチ、と舌を鳴らしたいところだけれど、さすがに上司にはそれは出来ず、立てた人差し指をちょいっと振って私は説明を続けた。
「フルーツを選ぶところから美味しくなるかどうかが決まります。その点、うちの店の果物なら……」
そして、ふたりで目を合わせて「最高」って言葉も合わせて、そして一緒に笑った。
初対面の面接のときも大笑いされたけど、斎藤氏……しかめっ面してるより笑った顔の方がいいな……。
斎藤氏の笑顔を見てそんなことを思っちゃっている自分に気づき、私は慌てて両手で頭をコンコンと殴る。