フルブラは恋で割って召し上がれ
「あれ? これ、斉藤さんの携帯ですよね?」
電話の向こうの黒木さんが、自分がかけ間違えてしまったのかと驚いたような声で話しかけてきた。
「はい、そうです。マネー……いえ、斉藤さん、今、電話に出られなくて……私が代わりに出ちゃいました。すいません」
「斉藤さん、どうかしたんでしょうか?」
「……えっと、酔っ払って寝てしまって……」
私がそう言うと、黒木さんは少しの間黙ってしまう。
「――失礼ですが、あなたは?」
「あ、私、斉藤さんの部下で夏目と申します」
「あぁ、新宿店の?」
名乗ってすぐにそんな応えが返ってきて私がびっくりしていると、黒木さんが続けて話し始めた。
「自分、楽市の企画部の黒木要(くろきかなめ)と言います。お疲れさまです」
「あ、はい。お疲れさまです」
さっきまでの口調とは違う軽快な話し方に、思わず挨拶を返してしまった私。
「明日の『ブランシェ』との打ち合わせなんですが、先方の都合で1時間遅れの11時からになったと伝えていただけますか? 斉藤さん、そうなると朝まで起きないんで、心配ないですよ。じゃあ、よろしく頼みます」
「え? あのっ、マネージャーを迎えにきて……欲しいのに〜っ」
用件だけ伝えて電話を切ってしまった黒木さんに私の願いは最後まで聞き入れられることはなく……。
虚しくツーツー言っているスマホを恨めしそうに見ても、斎藤氏に抱えられている私の頭が解放されることもなく。
マネージャーと一夜を共にした女子社員……なんて噂になったらどうしようっ……と、途方に暮れるようなことばかりで、私は抱き枕になったままベッドの上で脱力するしかなかった。
「……よいしょ……っと」
両手で斎藤氏の腕を抱えるようにして持ち上げ、なんとか脱出成功した私。髪はボサボサになるし、首は痛いし。もう、どうしてくれよう! って爆睡している斎藤氏を睨んでみる。