フルブラは恋で割って召し上がれ
 
「いただきます」ってふたりで言って、食事を始める。
 テーブルの上には焼き鮭と厚焼き玉子と大根おろしに白菜の浅漬け。いかにも庶民の朝食ってメニューだけど、口に合うかな? 何も言わず黙々と食事をする斎藤氏を見ていると、ご飯が喉を通らなくなりそう。

 気まずい空気の中での沈黙の朝食が終わり、熱い玄米茶をネコのイラスト付きマグカップに注いで「粗茶ですが」と斎藤氏の前に置いた。

「ありがとう」と言って斎藤氏はマグカップを持ったけれど、ずっとマグカップの中を覗いたままで一向に飲もうとしない。
 ――玄米茶、嫌いだったかな? と思いながら食器を片していると、

「――昨夜は、私と君は肉体関係を結んだのだろうか?」と、唐突に聞かれ、思わず食器の乗ったトレイをひっくり返しそうになってしまった私。

「なっ! ないです! ありませんっ! そんな関係、一切結んでませんからっ!」

 思わずテーブルに両手をバンッ! と付き、身を乗り出して全力で否定した私。それを見て、斎藤氏はホッとした表情を浮かべて「そうか」と一言呟くとお茶を飲み始めた。

 なんなんだろう、今の斎藤氏の表情と「そうか」の意味って。
 私とそんな関係にならなくて良かった……ってことなのかな……?

 もちろん、昨夜あのままマネージャーと最後まで行っちゃったらそれはそれで大変だけれど、何もなくて安心されちゃうのも、なんか悲しい女心だよね……。酔っていたとは言え途中で寝ちゃうのって、女として見られてないのかなぁ……。

「あの……。昨夜のこと、なにも覚えてないんですか?」
「君の作ったフルーツブランデーを飲んだことまでは覚えている。――それ以降は、なにも」

 一口で記憶失くしちゃうんだ……。それってある意味、すごいかも。

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