フルブラは恋で割って召し上がれ
「お酒、弱いんですね」
「下戸(げこ)なもんでね」
「え? 飲めないんですか? だったらちゃんと言ってください。私、飲めない人に無理にお酒なんて勧めませんよ?」
「君が私のために作ってくれたものだ。断れないだろう?」
いつものポーカーフェイスと、しばしの間バッチリと目を合わせてしまった私。
今の言葉、どう解釈すればいいんだろう?
「――それで、フルーツブランデー……フルブラと言うのか? 店舗で販売するわけにはいかないが、レシピを置いてみるのはどうだ?」
思い掛けない斎藤氏からの提案に、私はまたまたテーブルに身を乗り出してしまう。
「いいんですか? わぁっ、前からやってみたかったんです。美容にも効果あるし、女性客に絶対ウケると思うんですよね」
「あそこは三軒先に輸入洋酒専門店もある。店の入り口にブラックボードを置いてそこに日替わりでレシピを書けば、向こうの客も取り込めるだろう」
そう言った後で腕時計をチラリと見た斎藤氏は、徐おもむろに立ち上がるとハンガーにかかっていた上着を羽織り、ネクタイを締めながら私に微笑みかけた。
「この件は君に任せる。異動前のいい置き土産になるだろう。――では、私はそろそろ失礼する。打ち合わせの前にマンションに戻らないといけないんでね」
玄関に向かって歩き出した斎藤氏のあとを、私は昨日作ったりんごのフルブラを入れた紙袋を持って慌てて追いかける。
「あのっ、これ……」
「あぁ、すっかり忘れていた。これのために来たのに」
斎藤氏は紙袋を受け取ると、上着の胸ポケットから財布を取り出し1万円札を取り出した。