おいてけぼりティーンネイジャー
翌日も部活の後、病院へ寄った。
……嫌な予感は当たるもので、アリサのベッドは空っぽ。

ナースステーションで連絡先を聞こうとしたけれど、教えてくれなかった。
諦めて帰ろうとしたら、同室の女性がこっそりと教えてくれた。

アリサは神奈川県在住なこと。
抜本的な完治はできないが対症療法的な心臓の手術を終えて、体力もある程度回復したので帰宅したこと。
この病院には一ヶ月に一度外来に来るけど、それがいつかはわからないこと。

神奈川……か。
図書館で始めて逢った時に、見たことのない制服だと思ったけど……東京のまだ向こうか~。
さすがに逢いに行くことも、探しにいくことも不可能か。

でも、アリサ、ちゃんと約束してくれた。
夏休みの大会に来てくれるって。

……すっかりおいてけぼりを食らった俺には、それだけが心の支えとなった。


記録は順調に伸びた。
俺だけでなく、特に3年生は半数がいずれかの競技で全日中に出場するための標準記録に手が届きそうだ。
記録会や合同練習で他校との交流が増えたことも刺激になっているのかもしれない。

あとは、本番……つまり、通信大会か県総体で実力を発揮できるかどうか。
それだけだった。

通信大会の日は、スタンドが気になって仕方なかった。
基本的に、各校関係者しかいないので、一般観覧者、特に女の子がいるとかなり目立つ。
……2日間、暇さえあればスタンドを見ていたけれど、アリサはいなかった。

ああ、2日めの日曜には、卒業したまゆ先輩が来ていた。
「一条、気持ち、浮わついてない?」
スタンドを気にしてる俺を一喝。

「まゆ先輩こそ、こんなとこにいてていんですか?練習さぼってるんじゃないですか!」
ついそう憎まれ口をたたくと、まゆ先輩の同行者の女の子に笑われた。

「かわいい後輩の成長を観に来て何が悪いの!……ちょっと足首ひねったから大事をとって休んでんの。いいでしょ、たまには。」
「……無理せず、完治させてください。」

競技をやってて一番怖いのは、やはり怪我だ。
まゆ先輩のような全国レベルの選手にとっては、特に死活問題だろう。

「うん、そのつもり。とにかく成績残さないと居場所ないからね。……一条は、頭もいいんだから、普通に受験して高校行きなさいよ。」

さらっと言ってたけど、まゆ先輩の心の悲鳴が聞こえた気がした。
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