おいてけぼりティーンネイジャー
結局、俺は100mと200mで1位になった。
表彰されながら、アリサに見てもらいたかったな……と、そればかり考えていた。

帰宅すると、食卓には赤飯やご馳走が並んでいた。
「本当に県で1番速くなっちゃったのね。おめでとう!」
母は大はしゃぎしていた。

会場には、母と兄貴だけじゃなく、仕事で土日も忙しい父まで顔を出してくれていたようだ。
厳格な父が目に涙を浮かべて喜んでいたと兄貴から聞いて、信じられなかったが面映ゆくも感じた。

学校でも表彰され、ますます周囲が騒がしくなった……気がする。
確かに女子のギャラリーは増えた。

でも女子部の子たちがやたらうるさくガードしはじめたので、突撃されることはなかった。
……てか、走ってるだけの競技なのに、よく飽きずに見てるもんだ。

梅雨時は、毎年恒例の廊下ダッシュ。
今年は県下一の俺に挑んでくる各クラブの猛者(もさ)が多く、なかなか楽しかった。

もともと俺は長距離は苦手なので、マラソン大会ではせいぜい全校で10位以内にしか入らず、サッカー部あたりにはなめられていたようだ。

だが短距離では、意地でも負けられない。
野球部やテニ部にもダッシュ力のある奴らがいる。

各部員の応援も大きく、あまりにも盛り上がり騒ぎ過ぎたので、教師が飛んできて怒られたりもした。
……まあ、懲りずに雨のたびに廊下を疾走したけど。

うまくいくときは、何もかもがうまく運ぶものなのかもしれない。
期末テストでも俺は、自己最高の成績だった。
クラスで1位、学年4位。
「文武両道、だな。」
担任は満面の笑みで通知表をくれた。

夏休みに入ってすぐ、県総体があった。
俺は既に全日中への切符を手にしてはいるが、通信大会での活躍で注目されてしまい、今まで以上のプレッシャーを感じた。
……まあ、今回は自分のことより、部員の記録が少しでも出ればいいかな、と。

スタンドを見上げてはため息をつきつつ、1日めの日程を終えた。
200mで今回も1位になれたが、タイムは振るわなかった。

2日めは、昨日にも増して暑い日だった。
こんな日に来たら、アリサ、ひからびちゃうかも。
そんなふうに思ってたら、来ちゃったよ!

じりじりと太陽が焼けつけ、空気がゆらゆら見える午後。
アリサだけが青白く涼しそうに見えた。
白い日傘と白いワンピース。

すぐに駆けつけたい衝動を押さえて、俺は競技に集中した。
……アリサにいいところを見せたい。
その一心で、100m決勝戦を走った。

イデアの世界に入った……。

無心でゴールを駆け抜けた俺は、歓声とどよめきによって現実に引き戻された。

10秒92。

大会で11秒を切れたのははじめてだ。

俺は両手を握りしめ、雄叫びを挙げた。
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