おいてけぼりティーンネイジャー
「もうよろしいて。仕切り直してください。一条さんのそんな姿、知織は見とぉない思います。年明けて、松の内も済んでから、もっぺんちゃんと日ぃ決めて、お越し願えますか?迎えるこっちにも心の準備が必要ですから。」

そう言われて恐る恐る顔を上げると、大村さんは裕子の隣に移動して支えていた。
裕子は大村さんの腕に顔を押し付けて震えていた。

泣いてるのかもしれない。
……あやまりに来たつもりが、結局、裕子を追い詰めてる?

俺は立ち上がって、服に突き刺さってる白い砂利を手で払った。
マジでこの石、痛いわ。

「わかりました。今日はこれで帰ります。失礼しました。よいお年をお迎えください。」
「暎さん……」

知織の瞳が揺れた。
我慢してた涙がこみ上げてきたようだ。

「何度でも来るから。あきらめないから。知織も、あきらめないで。」
俺はそう言って、知織の瞳からこぼれた涙を指で払った。

「……一緒に、行く。」
かわいい知織にそんな風に言われて、俺は本気で連れていこうかとその手を握った。

でも、大村さんが猫なで声で言った。
「知織。除夜の鐘、一緒につきに行く約束しましたやろ。お母さん、楽しみにしてましたんやで。一条さんとはまた会えますやろ。何でも、物事は性急に進めたら仕損じますえ。時間かけて、うちらを説得してみよし。」

……心の中で俺は舌打ちした。
違う。
大村さんは優しいだけのヒトじゃない。
むしろ怖いヒトだ。
猪突猛進に来てしまったのは、失敗だったかもしれない。
俺は、勢いで押し掛けたことを後悔して、大村家を後にした。



レンタカーを京都駅で乗り捨てて、新幹線で東京に帰る。
道中、知織に何度もメールしようとしたけれど、結局送れなかった。
知織からも来なかった。
大村さんも裕子も、知織から電話を取り上げるようには見えない。
たぶん、家族会議中なんだろうな。

俺はやりきれずに、車内販売からビールを買って飲んだ。
酔うほどの量じゃない。
なのに、悪酔いしたのか。

気持ち悪くなって、何度も吐いた。

……苦しくて、せつなくて、知織の小さな温かい手が恋しかった。



東京駅から、自宅マンションには帰らず、まっすぐ実家に向かった。
うちも無駄に大きな家だと思ってたけど……しょせん、田舎の豪族上がりだな。

由未ちゃんの桁外れな金持ちが普請した城みたいなお屋敷と、知織のいかにも通人好みの細部にまでこだわった寝殿造りと書院造りの折衷みたいな庵を思い出して苦笑した。
< 150 / 198 >

この作品をシェア

pagetop