おいてけぼりティーンネイジャー
「一条ー!そこまでだー!降りて来いっ!」
顧問が下から俺を呼んだ。

「やばっ!じゃ、横浜で!今日はありがとう!」
アリサにそう言って、慌ててスタンドを駈け下りた。

ふり返ると、アリサも席を立とうとしているようだ。
俺はもう一度アリサに向かって大きく手を振ってから、顧問のもとへと走った。

「……お前、衆人環視で何やってんだ。焦ったぞ。」
顧問は特に用事があるわけではなく、俺がアリサの手を取ったところで女子が騒ぎだし、慌てて
ストップをかけたらしい。
「あの子、うちの生徒じゃないのか?」

白い日傘が小さくなっていくのを眺めながら、顧問が聞いた。
「違いますよ。同じ学校なら話は早いんですけどね。」
俺の苦笑に顧問は神妙にうなずいた。

「ま、一条だから馬鹿なことはしないと信頼してるけどな、一応他の部員には誤魔化しておけよ。事を荒立てるな。」
俺は顧問の信頼に感謝した。


それからの二週間は、夢のように過ぎた。
通信大会と県総体を連覇したことで地元新聞やケーブルテレビの取材を受けると、夏休みだと言うのにグランドのギャラリーがまた増えた。
他校の女子も加わり、いっそうの賑わいとなったようだ。

しかし、うちの部の女子からは冷ややかな目や恨めし気な目で見られてる、ような気がする。

『一条は、色の白い病弱系美少女が好きなんだって?』
……どこをどう伝わったのか、わざわざまゆ先輩が電話をかけてよこした。

「すごい情報網ですね。」
憮然としてそう返事すると、まゆ先輩はちょっとがっかりしていたようだ。

『そっか。マジなんだ。じゃあしょうがないな。その子と別れたらまた教えてよ。一条を紹介してほしい子、いっぱいいるから。白いのから黒いのまで、病弱から健康まで。』

……どこの遣り手婆ぁだよ、まゆ先輩。
「じゃ、プラトンの話ができる子で。」
冗談のつもりでそう指定すると、まゆ先輩は息を飲んだ。

『……1人いる。けど、傷つきやすい子だからダメ。』
いるのか!

「へえ。変わった女の子もいるんですね。でも俺も、ダメですよ。今は……彼女のことしか考えられませんから。」
まゆ先輩にまでノロケてしまうぐらい、俺は浮かれていた。

 
そして迎えた関東中学校陸上競技大会、通称地区総体。
来週の全日中の前哨戦。

何より、アリサが見てくれている。

俺は、いつも以上に張り切っていた。
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