おいてけぼりティーンネイジャー
昼から、執刀医が病室に来てくれた。
あらかじめ開けてあるギプスの隙間から、縫合箇所を確認して、満足そうに頷いた。
「化膿もしてないし、大丈夫でしょう。明日もう退院しますか?」
……そんな簡単に出られるのか。
何週間も入院していたアリサって、いったいどれだけ大変な病気なんだろう。
ぼんやりそう思いながら、うなずいた。
夕方来てくれた兄貴に、明日退院する旨を伝えた。
「わかった。車で迎えに来るから。……じゃあ、これ、持ってこなくてもよかったな。」
兄貴はそう言いながら、大きな紙袋を俺に渡した。
中には、色とりどりの千羽鶴とたくさんの封筒が入っていた。
「花やフルーツは家に置いてきたけどな。」
兄貴は苦笑しながら、俺の肩をポンポンと叩いた。
「暎(はゆる)のことを応援してくれてる人がこんなにいるんだな。すごいな。」
言葉が出ない。
口を開くと、涙が出そうだった。
俺がいつまでも黙って袋の中を見ていたので、兄貴は気を利かせて帰っていった。
1人になってから、紙袋の中身をベッドに出してみた。
俺が怪我したのって、3日前だよな。
たった3日で千羽鶴って……。
部員30人で折ってくれたのか。
おそるおそる手紙を開封する。
俺と同じ100mを得意にしてる一つ下の後輩からの手紙だった。
<先輩は僕の目標です。>
そんな言葉に、涙がこみ上げた。
ハッとして、封筒の差出人名をガサガサと音をさせて探す。
知らない名前も知っている名前もあった。
切手の貼ってあるものも、住所の記名すらないものも交じっている。
……もしかしてまた新聞に載ったのだろうか。
遠方の住所も交じっていた。
アリサの名前は、なかった。
夏休みは、結局、悶々と過ごした。
一週間に一度の通院以外は外出もしなかった。
宿題を含めて勉強する気にもならず、ただひたすら書斎の本を読みふけった。
暇に任せて、今まで読まなかった分野の本にも手を出した。
自然科学や物理学、地質学、法律、憲法学。
文学性のない無味無臭の文章が心地よく感じるほど、俺の心はやさぐれていたようだ。
見かねた兄貴が、自分の秘蔵のCDを貸してくれた。
……俺も兄貴もピアノを小さい頃は習っていたので、クラシックは普通に聞いていたが……兄貴が出してくれたのは、明らかにそれとは異質だった。
ドラム、エレキギター、ベース、異常に高い声のヴォーカル。
シンプルなバンド形式のハードロック。
日本に溢れてる頭の悪そうな言葉の羅列を叫ぶものではなく、一音一音に頭が痺れた。
特に4曲め。
これは、なんだ?
ハードロックという分類で収まりきらない。
俺は、彼らの魂の叫びに打ちのめされた。
あらかじめ開けてあるギプスの隙間から、縫合箇所を確認して、満足そうに頷いた。
「化膿もしてないし、大丈夫でしょう。明日もう退院しますか?」
……そんな簡単に出られるのか。
何週間も入院していたアリサって、いったいどれだけ大変な病気なんだろう。
ぼんやりそう思いながら、うなずいた。
夕方来てくれた兄貴に、明日退院する旨を伝えた。
「わかった。車で迎えに来るから。……じゃあ、これ、持ってこなくてもよかったな。」
兄貴はそう言いながら、大きな紙袋を俺に渡した。
中には、色とりどりの千羽鶴とたくさんの封筒が入っていた。
「花やフルーツは家に置いてきたけどな。」
兄貴は苦笑しながら、俺の肩をポンポンと叩いた。
「暎(はゆる)のことを応援してくれてる人がこんなにいるんだな。すごいな。」
言葉が出ない。
口を開くと、涙が出そうだった。
俺がいつまでも黙って袋の中を見ていたので、兄貴は気を利かせて帰っていった。
1人になってから、紙袋の中身をベッドに出してみた。
俺が怪我したのって、3日前だよな。
たった3日で千羽鶴って……。
部員30人で折ってくれたのか。
おそるおそる手紙を開封する。
俺と同じ100mを得意にしてる一つ下の後輩からの手紙だった。
<先輩は僕の目標です。>
そんな言葉に、涙がこみ上げた。
ハッとして、封筒の差出人名をガサガサと音をさせて探す。
知らない名前も知っている名前もあった。
切手の貼ってあるものも、住所の記名すらないものも交じっている。
……もしかしてまた新聞に載ったのだろうか。
遠方の住所も交じっていた。
アリサの名前は、なかった。
夏休みは、結局、悶々と過ごした。
一週間に一度の通院以外は外出もしなかった。
宿題を含めて勉強する気にもならず、ただひたすら書斎の本を読みふけった。
暇に任せて、今まで読まなかった分野の本にも手を出した。
自然科学や物理学、地質学、法律、憲法学。
文学性のない無味無臭の文章が心地よく感じるほど、俺の心はやさぐれていたようだ。
見かねた兄貴が、自分の秘蔵のCDを貸してくれた。
……俺も兄貴もピアノを小さい頃は習っていたので、クラシックは普通に聞いていたが……兄貴が出してくれたのは、明らかにそれとは異質だった。
ドラム、エレキギター、ベース、異常に高い声のヴォーカル。
シンプルなバンド形式のハードロック。
日本に溢れてる頭の悪そうな言葉の羅列を叫ぶものではなく、一音一音に頭が痺れた。
特に4曲め。
これは、なんだ?
ハードロックという分類で収まりきらない。
俺は、彼らの魂の叫びに打ちのめされた。