おいてけぼりティーンネイジャー
「兄貴!これ、すごいよ!もっとある?貸して!」
松葉杖で両脇を支えたままドアをノックするのももどかしく、廊下から部屋の中の兄貴に声をかけた。

すぐに兄貴は出てきた……エレキギターを抱えて。
兄貴、ギター弾くのか!
いや、そもそも持ってたのか!

驚く俺に、兄貴が苦笑した。
「まあ、入れよ。」

「兄貴、それ、どうしたの?ギターなんか、やってたっけ?」
俺が聞くと、兄貴は照れくさそうに言った。

「去年の学園祭で友達とバンド演奏をしたら、えらい好評で、それからずっと。もうステージに立つこともないだろうけど、楽しくてな。」
知らなかった!

「何やったの?」
兄貴はニヤリと笑った。
「さっき暎に貸したCDの2曲め。」

rock'n'roll!

俺はあのご機嫌な音楽を思い出して、つい声を挙げた。
「すごいよ!……でもあの声、よく出たね。」
成人男性にはかなりきついだろう高音だ。

「出ないよ。で、ヴォーカルを女の子に頼んだんだ。したら、メンバーの1人が彼女といい加減な気持ちで関係して、痴話喧嘩で解散。……暎なら歌えるかもな。」

兄貴の話に唖然としたが、最後の言葉に更に驚いた。
「出ないよ!」

「いや、出るよ。暎は、まだ自分が変声期の途中だとでも思ってるようだけど、もうとっくに過ぎてるよ。」
兄貴にそう言われて、俺は思わず喉をおさえた。

……すっとんきょうな声ではない。
むしろ、砂糖菓子のように甘いと揶揄される声。
確かに普通の男子よりは高いし、実は音楽の時間にふざけてソプラノパートを歌うこともある。

「……歌ってみるか?」
兄貴がニヤリと笑った。

俺は息を飲んだ。
「どうせなら、4曲めがいい。」
そう言うと、兄貴は目を見開いた。

「あれはダメだ!無理!いや、曲は最高にいいけどな、あれは……ギターが違うんだ。」
確かに音の種類が違った気がする。
てか、途中からガラッと転調した。

「別のギターに持ち替えたのかと思ったけど。」
「半分正解。あれ、ダブルネックギターなんだよ。」
……ネックが2本あるのか!
へええええ!

「ライブ映像もあるけどな、見るか?音楽はスタジオ収録のほうが圧倒的にいいけど、ステージパフォーマンスはまた……すごいぞ。」

そのまま、兄貴の部屋でビデオ上映会をした。
1969年……俺の産まれる前のステージ。
なのにこんなに完成してるのか。
なんだ、これは。

「兄貴。この人達……今は?」
こんな魂の演奏を、長く続けられるわけがない。

「ヴォーカルが喉を潰して手術してたなあ。結局10年足らずで活動停止。ドラムは早くに死んだ。ギターとベースは今も活動してるよ。」
俺は、すっかり彼のギターに魅せられてしまった。
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