おいてけぼりティーンネイジャー
兄貴からCDや楽譜を借りると、久しぶりにピアノで弾いてみたり、歌ってみたりしていたが、やはり最終的にはギターをやりたくなった。

そんな俺の気持ちが手に取るようにわかるらしく、兄貴は俺に全部くれた。
「暎のほうが音楽のセンス、昔からいいからな。」

俺は夢中になって、ギターを練習した。
器用なほうではないが、熱意が上達させた。

夏休みが終わっても、まだギプスも松葉杖も手放せなかった。
松葉杖での登校は、予想以上に大変だった。
腕の筋肉がパンパンに張ってとにかく痛い。

でも何よりつらいのは、人の目。
さすがに県総体での1位の表彰は勘弁してもらったが、それでも俺の怪我はみんな知っていて、やたら同情されるのがいたたまれなかった。

俺自身が、既にもう仕方ないと納得してたはずだったのに、他人からの言葉と目が煩わしくて、マジで学校に行きたくなくなった。

俺を癒やしてくれるのは、本と音楽。
特に魂のあるハードロックに、生きる力をもらった。

9月半ばに、やっとギプスを取ってもらえた。
専用の固定器具で膝上からかかとまでをがっちり支えて、相変わらず松葉杖は必要だったけれど。
かかとの部分がぶあつい中敷きを何枚も重ねて、まるでハイヒールを履いているかのように爪先立ちの形をキープしていて、けっこう疲れた。

10月半ばに、松葉杖から杖に変えてもらえた。
つまり脚を地面に付けて歩行してもいい許可が下りた。
でも正直、怖かった。
アキレス腱は一度切ると再断裂することが多いらしい。
俺は、慎重に歩き始めた。

その後は、中敷きを徐々に減らしていった。
一枚中敷きが減るごとに、ヒール部分が低くなり、アキレス腱が伸びる。
医師は、一週間ごとに一枚減らしていいと言ったが、怖くてとてもできない。
……俺はいつの間にか臆病になっていたようだ。

2学期は特に行事が多い。
陸上部の俺が大活躍できる体育祭も、毎年フォークダンスでもみくちゃにされる文化祭も、今年は俺を素通りしていく。

俺は、なるべく人目を避けて、身を潜めるように時を過ごした。
志望校も変更した。
本当は兄貴が行った、偏差値の一番高い公立高校を受験するつもりだった。
……そのための勉強はしてきたし、たぶん受験すれば今でも合格はできるだろう。

でも、俺は遠くに行きたかった。
俺を知る人が誰もいない高校。

全寮制の学校に行くことも考えたが、親に反対されて諦めた。
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