おいてけぼりティーンネイジャー
年が明けると、固定器具をはずしてもいいという許可をもらった。
杖も器具もなしで歩くことは、再断裂を恐れる俺には恐怖以外のなにものでもない。

医師に相談して、足首のテーピングやサポーターを併用することにした。
小走りすらできない。
自転車にも乗れない。
自分の臆病さを滑稽に感じたが、どうしようもなかった。

小さなことで苛々したり、家族に八つ当たりしたり……自分で自分が嫌になる。
そんな時、いつもアリサを思い出した。

彼女の気難しさも、卑屈さも、とんがった感じも、やっぱり病気ゆえのことだったんだろうな。
今ならわかるのに。
あの時、何もしてやれなかった。
……アリサ。

途切れてしまった縁の糸は、もう二度とつながらないのだろうか。



俺が受験したのは、うちの学校からは他に誰も受けなかった東京の私学の男子校。
当然のように合格した。

卒業式は最後ということもあり、たくさんの女子から告白され、ボタンやサインをねだられた。
でも、俺は全て断った。
プレゼントも花も受け取らなかった。

……自分にそんな価値はない。
本気でそう思っていた。
しょせん、落ちた偶像だ。
頼むから、そっとしておいてほしい。

輝かしい青春時代を封印して、俺は足をひきずって中学校の門を出た。
二度と戻らない古き良き時代に別れを告げる気にもなれない。

足取りは重くゆっくりだったが、心は逃げるように逸った。








「暎(はゆる)!何だその格好は!いい加減にしないか!」
父の叱責に背を向けて、俺は玄関のドアを勢いよく閉めた。
……今更、何だって言うんだ。
さんざん無視してきたくせに。

俺は苛々して、学生カバンから煙草とライターを取り出し、火を付けた。

ゴミ出しのついでに立ち話している近所の主婦が非難がましい目で俺を見る。
「何見てんだよ!殺すぞ!ババァ!」
そう嘯(うそぶ)くと、主婦連は目を三角にして、キーキー文句を言っていた。

あー、めんどくせぇ。
俺は学ランのまま煙草をくわえて駅まで歩いた。

入学した高校は、最寄り駅から電車を乗り継ぎ小一時間。
男子校ながら、近くには超有名お嬢様学校もある。
たまたま同じクラスになった洋楽好きの5人でバンドを組むと、俺たちは際限なく悪のりしていった。

髪を伸ばし、明るい金色に脱色し、派手なシャツを学ランの下に着込む。
金のアクセサリーをじゃらじゃら付けて、肩にエレキギターをかつぎ、革のブーツで闊歩した。

ライブをする度にファンが増える。

完全に調子に乗っていた。
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