Trick or Love?【短】
「ベッドの中でなら、久美が欲しがってる言葉を聞かせてあげるけど?」


あぁ、もう……。

本当に、悔しい。
こんな男に堕とされてしまったなんて。
こんな男を好きになってしまったなんて。


それなのに、“幸せ”なんて呑気な言葉が頭の中を過ぎった。そんな自分自身に心底呆れて、どうしたってこの感情を認めるしかないのだと思い知らされる。

沙耶の言った通りになったことにも納得ができなかったけど、彼女はきっと自分のことのように喜んでくれるのだろう。親友の笑顔が脳裏に浮かび、私の背中を押す。


「の、望むところよ!」


飛び出したのはやっぱり可愛げのない台詞だったけど、悔しいのだから仕方ない。そして、そういう気持ちでいながらも、おろしたての下着を着けていることがばかみたいで嫌になる。


そんな気持ちを隠さずに原口くんの瞳を真っ直ぐ見ると、彼が「勝負や喧嘩じゃねぇんだから」とクシャッと破顔した。からかわれていることよりも、その笑顔に心を奪われた私はきっと重症なのだろう。


「久美」


愛おしげに呼ばれてハッとすると、直後には唇が塞がれた。


狡猾な男には似合わない、そっと触れるだけの優しいキス。

大切に扱われた唇から温もりが離れると、原口くんがふっと笑った。左頬を包み込んだ手はそのままに指先で耳たぶを擽るように撫でられ、右手を握っていた彼の左手が後頭部に添えられた。


目を見開く間もなく、再び唇が奪われる。


堕ちていく。逃げられない。


だけど――。





それでも、あなたが好き……。


言葉にはできなかった想いを心の中で自然と零した時、きっとこの後には抑えきれない感情を声にしてしまうことを予感した――。





END.




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