魔王vs神王→私!?
第十四章




 -レンの部屋ー






 夢の中の声とレンくんの声が同じだと気付いてから、私の夢は、だんだんとはっきりとしてきていた






 相変わらず私の名前は聞こえないものの、くぐもっていた声はだいぶ明瞭になり始めた







 夢を見るたびに、何とも言えない感情が溢れ出てくる





 

 その感情の名前は、わからなかった






 「ユーリ、ねむれないんですか?」






 『うん・・・なんだか、ね』





 
 いつものようにトランプゲームをして、レンくんは明日、大事な仕事があるらしいから、早めににベッド入った







 いつもならすぐに深い眠りにつくのに、今日は何故だか眠たくない







 何故と言うか・・・理由は、明確ではあるんだけど







 それをレンくんに言う気にはなれなかった







 「もしかして、まだあそびたりないんですか?
 じつはぼくもなんですよ!!もっとあそびましょうか!」






 
 わくわくと言うレンくんをたしなめ、ぽんぽんと背中を叩いて睡眠をうながす







 少しすると、レンくんは眠ってしまったようだった






 でもやっぱり私は眠れない







 心の中で溜め息を吐きながら、レンくんの大きすぎるベッドから抜け出し、バルコニーに出た







 空には、大きな月






 綺麗に、金色に輝いているはずの、月







 ・・・私には、そうは見えないけど






 
 『薄い・・・紫の、月』







 絶対にあり得ない色の月が、浮かんでいた








 私の視界は、ブドウの皮を光に透かして見たかのように薄紫に染まっていた






 
 明るい場所でも、暗い場所でも






 何をしていても、寝ていても






 夢の中でも、ぼんやりと紫を通した世界が見えてきた






 私から見える世界は、薄紫を基調とした紫一色







 濃淡があるおかげで、決して不自由なわけではない





 それでも、あまり愉快なものではないというのが本音








 紫は紫で綺麗だけど、なぜかとても胸が苦しくなるから






 
 辛くて、悲しくて、苦しくて、涙が溢れてくる








 今、この瞬間も、例にたがわず。






 『・・・ふっ・・・うぅう・・・』







 ぼろぼろと零れていく涙を、拭いもせずに、心地の悪い薄紫色の月を眺め続ける







 心を占めるのは、恐怖だった







 「幸せに、なれなかったんだな」








 ぽつり、誰かが呟いた







 声の主を確かめるべく辺りを見回すと、おそらく飛んでいたであろうシオン様が私の横に降り立った






 
 『シオン、様・・・』








 「・・・そんな目するなよ。俺はただ、ユーリに幸せになってほしかっただけなんだ」









 シオン様は、傷ついたような顔をしながら、赦しを請うように笑った







 シオン様の手が私の頬に添えられ、親指で涙が拭われた








 『しあ、わせ・・・』







 「でも、結局、生きていても、天界にいても、変わらなかったんだよな」









 
 ふわり、抱き上げられた







 
 何度目かわからない、シオン様の腕の中






 
 最初はレンくんの方がずっと安心したのに、今は疑心でいっぱい






 
 空を飛ぶなら、シオン様の方が安全な気がしていた








 だから、今、飛んでいてもあまり怖くなんかない







 むしろ肌の温かさが心地よかった




 シオン様が私を窺うように見ながら言う






 「俺は、レンと契約したときに、ユーリについてたくさんの条件をのんだ


 だからお前に過去を教えることはできないし、お前への感情だって表にだすのを禁じられた



 だが、連れ回すなとは言われていないし、ヒントを与えるなとも言われていない


 この先に、きっと、ユーリの過去か、それを思い出すための大きな糸口かがある」







 ばさり、漆黒の翼をはばたかせて





 シオン様は、自分の国に、私を連れて行った



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