恋は死なない。
「……はい。気をつけます」
佳音が素直にそう言ってうなずくと、おじさんもニッコリと笑いかけてくれる。
コンビニを出て、おじさんは何気なく佳音の工房の近くまで送ってくれて、魚屋の方へ向かう分かれ道の街灯の下で別れた。
こんなふうに、縁もゆかりもない自分のような人間に優しくしてくれる魚屋のおじさん――。彼のような人柄が、佳音はとてもうらやましかった。
工房へ上がる薄暗い階段を踏みしめながら、佳音は思う。
魚屋のおじさんからのものに限らず、人の優しさを心から快く感じて、自分も同じものを返したい……と。
まずそれができなければ、誰かのために生きていくことなどできはしない。だから、それができない自分には、本当の幸せなど訪れはしないのだ。
そうなるには、佳音の心を覆う鎧があまりにも強固すぎる。自分を守るためだった心の鎧が、却って本当に強くなることを阻んでいた。
一度まとった鎧を脱ぎ捨てて、ありのままの自分をさらけ出すのは、佳音にとって簡単なことではなかった。
仕事が立て込むときにはそれが集中するもので、ネットで依頼を受けて制作している細々とした小物づくりの仕事が立て続けに入ってきた。
佳音はこの日も、注文を受けたヴェールとリングピローを丁寧に梱包し、依頼主へと発送した。