恋は死なない。
男の声に、佳音は返事をするよりも先に、思わずビクッと体をすくめた。声の主を確かめると、魚屋のおじさんだった。
「……こんばんは」
佳音は幾分肩の力を抜いて、おじさんにほのかに笑いかけた。
「この頃、姿を見ないと思ったら、こんなところで弁当なんか買ってるのか?コンビニの弁当なんか食っちゃだめだよ。添加物だらけで体に悪いぜ?」
と、話しかけてくるおじさんの大声は、コンビニ中に響き渡り、弁当を並べ直していた店員や、今まさに弁当を買おうとしていた客は、ピクリとその動きを止めた。
その無神経さに苦笑いしながら、佳音は肩をすくめる。
「そう言う魚屋さんも、お弁当買ってますね」
佳音が突っ込んだ通り、おじさんの手には小さな弁当があった。おじさんは佳音に一本取られたとばかりに、ガハハ!と豪快な笑い声はコンビニに響き渡った。
「俺もちょっと、小腹が減ってな。俺みたいなオヤジは、今更何食べたって構やしないんだよ。だけど、若い娘はこれから子どもも産むこともあるだろうから、体は大事にしなきゃな」
おじさんの言葉が、キュッときしみながら胸に沁みていった。父親のように心配してくれるありがたさと、子どもを産むことなんてないだろうと思ってしまう寂しさを伴って。