恋は死なない。



動揺しているのは、“妊娠”という事態が、人生経験の少ない佳音が一人で考えて解決するには、あまりにも深刻すぎるからだ。誰かに相談しようにも、事が事だけに、他人に真実を語るのは憚られた。


本来この事実を一緒に受け止めてくれるべき、“お腹の子の父親”には、決して頼ることはできない。これから幸世との結婚を控えている和寿だけには、このことは絶対に知られてはならない。


産むのなら……、自分一人で育てていくしかない。
……でも、この工房で働きながら、赤ちゃんを育てられるだろうか?ほとんど蓄えなどない佳音の生活は、仕事をしなくなれば途端に破綻してしまう。
朝から晩まで働いて、自分一人がやっと暮らしていける程度なのに、この子を養っていける余裕があるだろうか?

産んだ後の現実をいろいろと想像すると、佳音にはとても無理だと思った。

産んでも、自分は親として何も満足に与えてあげられない。こんな自分に育てられたら、きっとその子は不幸になってしまう。

それに、大きな会社の社長になるはずの和寿にも、この子の存在が災いし、その地位を危ういものにするかもしれない。


――産んではいけない……!


佳音はまるで脅迫されているかのように、そう思った。


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