恋は死なない。



――……いっそのこと、この子と一緒に消えてしまえたら、どんなに楽になるだろう……。


この世に産んであげられないのなら、一緒に死んであげればいい――。
所詮、自分だって、この世にいなくてもいいような存在なのだから……。

次に来るのは、快速電車。それがこの駅を高速で通過するときに、一歩だけ踏み出せば、それで全てを終えることができる。


そう考えて心を決めると、佳音の感覚が何も無くなった。ホームに吹き通る風も、電車の音もにおいも、さっきまで佳音を苦しめていた哀しみも寂しさも、……すべてがなくなった。
消えてしまえることが、こんなにも心安いことだとは、佳音は思いもしなかった。


電車がホームを通過するベルが鳴る。佳音は、その一歩を踏み出そうとした。


「そんなに前に行くと、危ないわよ!」


鬼気迫る声とともに、佳音は突然、腕を引っ張られた。
ハッとして、その行為の主を振り返ると、初老の女性がしっかりと佳音の腕を掴んでいる。
その瞬間、快速電車は一陣の風とともに駆け抜けていった。


ホッと息をつくのもつかの間、青ざめた佳音の顔を見て、その女性も尋常でないことを覚る。


「大丈夫?気分でも悪いの?」


問いかけられて、佳音は我に返った。この目に映っていることは現実で、自分はまだ生きてこの世にいるらしい。


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