恋は死なない。



真琴が我が子に歩み寄って、その安らかな寝息を確かめていると、今度は古庄の方が声をかけた。


「……真琴。……おいで」


二人きりの時にしか聞けない深い声色に、真琴が目を上げる。すると、古庄は両手を広げて待っていた。


まるで吸い寄せられるように、真琴は古庄の腕の中に納まり、その胸に頬をつけ体を預けながら、清かに光を放つ月を見上げた。

こうやっていると、まるで初めて結ばれた夜に戻ってしまったようだった。


「君を抱きしめられる幸せを思うと、……あの時、勇気を出して、芳本さんに切り出していて……、今は本当によかったと思うよ」


『芳本さん』というのは、かつて古庄が婚約をしていた真琴の親友だ。
先ほど佳音の話を聞いて、自分たちが出会った時のことを思い出したのだろうか。真琴の体がキュッとしなるほど、古庄はその腕に力を込めた。真琴にとっても、そんなふうに抱きしめられるのは本当に久しぶりだった。


「静香さんは、もう『芳本』じゃないんですよ。去年結婚してくれたから、私もやっと気持ちが楽になりました……」


あの時、静香に辛い思いをさせてしまった重さは、ずっと真琴と古庄にのしかかっていた。でも、静香が心を犠牲にしてくれたおかげで、真琴と古庄はこうやって愛しい人を抱きしめることもできるし、四人のかけがえのない子どもたちも、この世に生を受けることができた。



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