恋は死なない。
佳音は、和寿の腕の中にいる感覚を、目を閉じて噛み締めた。きつくきつく抱きしめられても、また目を開けてしまえば、和寿は消えていなくなってしまいそうだった。
「……佳音」
和寿の口からやっと出てきた言葉は、佳音の名前。
こんなふうに和寿が自分の名を呼んでくれるなんて、もう二度とあり得ないと思っていた。
「君をもう一度、こうやって抱きしめることだけ、ずっと考えてた」
目を閉じた暗闇の中で、和寿の声が佳音の奥深くにまで響き渡って、佳音も想いが抑えられなくなってくる。抱えていた想いがあまりにも大きすぎて、表現できずただ涙だけが溢れてきた。
「……それがやっと、現実になった……」
和寿のその言葉に、佳音はうっすらと目を開けた。
「……現実?」
佳音がつぶやくと、和寿は腕の力を緩めて、涙がこぼれる佳音の顔を覗き込んだ。
佳音がまぶたを開いても、和寿は消えていなくなったりはしなかった。そこには、切ない目で優しく微笑む和寿の顔があった。
「言っただろう?ここに戻ってくるって……。君がいなければ、僕はもう生きていけないんだから」
和寿がいなければ生きていけないと思ったのは、佳音の方だった。さっきまでは、あれだけ一人で生きて行こうと思っていたのに、目の前にいる和寿を失っては、もう呼吸さえもできなくなってしまいそうだった。