恋は死なない。



和寿は、狭い路地の裏道を教えてくれた。まだこの街に来て日も浅いのに、和寿はこの街のことをよく知っているようだ。先日、印鑑を買いに行った時も、文房具屋の場所を教えなくても、和寿はすでに知っていた。


「どうして、こんな道を知ってるの?」


佳音の疑問を聞いて、和寿は恥ずかしそうに告白する。


「まだ、君と親しくなる前は、ストーカーみたいに君を追い求めて、この街を歩き回ってたんだ。歩いてたら、君にバッタリ会えるんじゃないかって。というよりあの頃は、君の近くにいて、同じ空気を感じられるだけで嬉しくてね」


そんな話を聞くと、佳音の胸はキュンと鳴いて、甘く痺れて息が苦しくなる。何気なく感じていた和寿の行動や言葉の陰に、そんな想いが隠されていたなんて、佳音は思いもよらなかった。


花屋に行くと、店主は二人の姿を見て、嬉しそうに微笑んでくれた。この店主は、佳音と和寿が初めて個人的に言葉を交わした場面に居合わせて、その仲を取り持ってくれたような人だった。

工房には、幸世からもらった大きな花束があるので、何も買わずに花屋を後にする。帰りは、川沿いの堤防道をゆっくりと歩いて、家路をたどることにした。


「この街は、本当にいい街だね」


深まった秋の風を感じながら、和寿は佳音に話しかける。佳音は歩きながら、手をつなぐ和寿を見上げた。


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