恋は死なない。



「はい。うちの主人が、佳音ちゃんが高校生のときの担任だったんです」


「はあ、……ご主人が……」


と、ため息をつきながら、もう一度まじまじと古庄を見上げる。
柔らかく口角を上げて、古庄が極上の笑みをたたえて会釈をすると、一同は息を呑んで一瞬静寂が漂った。


「ああ、古庄さん。いらっしゃいませ。お出迎えもせずに、すみません」


その時、店の奥の厨房から和寿が出てきた。すでにビジネスマンの風貌はなく、すっかりケーキ職人という雰囲気が板についている。


「おお、古川くん!開店おめでとう!!とうとう、実現したね!!」


和寿の姿を見ると、古庄は顔を歓喜でいっぱいにして、右手を差し出した。


「ありがとうございます!」


しっかりと握手を交わしながら、和寿も明るい笑みで表情を満たした。


この日は、佳音と和寿が持つ新しい店のプレオープンの日。親しい人たちを招いて、普段の感謝の意を表したいと思い、二人で計画したものだった。

三年前に、一緒に夢を叶えると誓い合ってから、二人は力を合わせて頑張ってきた。
和寿は、洋菓子店で働きながら通信教育で二年間をかけて“製菓衛生師”の資格を取り、一念発起して自分の店を開くことにした。それに伴い、和寿の提案で、佳音の工房も一新して、一つの場所でカフェと工房を兼ねた店とすることにしたのだ。


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