砂糖菓子より甘い恋1

二の三 鬼駆ける屋敷

もー、やだ。
どうなってんの、この屋敷!!

唇づけに応じるふりで相手の力を抜かせ、ぎりぎりで雅之から逃げ出した毬は部屋を飛び出して、助けを求めた。

が、何故か皆、楓と同じように真っ青になって倒れているのだ。

毬は一心不乱に屋敷中を走った。

気付いたら、暗い土倉にいた。

「……どうして、そんなに逃げるの?
 あんなに愛されたら嬉しいんじゃないの?」

唐突に、女の声が聞こえて身体が跳ねる。
土倉の中に、顔色の悪い女がいた。
薄桜色の着物を身にまとっている。
髪型とその着物から判断して、おそらくは、女房だ。

「愛された?
 誰が?
 突然抱きしめられたら誰だって逃げるわよっ!」

イラっとして、声を荒げた。

「あんなに素敵な殿方なのに?」

女房は、首を傾げる。

むしろ首を傾げたいのはこっちだと、毬は思う。

「す……素敵とかどうとか関係ないわよ。
 人の気持ちも考えずに、気持ちを押し付けてくる男なんてろくな男じゃないに決まってるわ」

きらり、と、女の目が暗闇で光った。

「人の気持ちなんて考えてたら、恋なんて出来るわけないわ。
 世間知らずのお姫様」

ゆっくりと、女の声のトーンが下がっていく。
土倉の温度が、一気に下がっていく。





違う、あれは、人じゃない。

毬は懐に隠し持っていた短剣を、ぎゅっと握り締めた。
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