砂糖菓子より甘い恋1
「お前は知らない

 辛くて、苦しくて、人を殺めたくなるこの気持ちを。

 お前は知らない

 だから、死んでしまえ」

女の形をしたものの、瞳がますます強い光を帯びる。
声は、獣のうなり声のように低い。

息が、苦しい。
胸が、痛い。

身体が重い。

じりじりと、後ずさる。

女はなおも報われない戯言を延々と言いながら、毬のほうへと近づいてくる。

苦しい。
頭が痛い。
声が出ない。

気を失いそうになって、彼女は思わず自分の手のひらで小刀の刃を握り締めた。

「きぃやぁあっ」

唇をかみ締めて痛みに耐えようとしたが、考える前に悲鳴は漏れていた。

ぽたり、ぽたりと。
紅い血が床へと滴る。




近づいてきた女の胸に、毬はほとんど無意識にその短刀を突き刺していた。

……しかし、相手は妖(あやかし)
空を刺したようなむなしい手ごたえしかなく、毬はぎゅうと目を閉じた。

こんなことなら、都になんて戻ってこなければ良かった。
嵐山で鄙びた日々を過ごしていれば良かった。

思わず、閉じた瞳から涙が零れる。

そのとき。

「ぎぃやあああああ!!!」

と、獣が深手の傷を受けたような、けたたましい悲鳴をあげて女は身を翻した。


< 27 / 53 >

この作品をシェア

pagetop