砂糖菓子より甘い恋1

三の一 拭えぬ疑惑

嫌だわ・・・と、滴る血液を見ながら、毬は思う。

物語に出てくるお姫様なら、そろそろ気絶しても良い頃合いだ。
雅之は、困り顔で少し離れたところから心配そうに毬の様子を伺っていた。

先ほど、自分に迫ってきた男と同一人物だとは思えない。

「……いつ、来たの?」

警戒心を微塵も解かずに唇を開く。

「ここに入れたのはつい先ほど。
 屋敷全体が封印してあったので、それを解くのに手間取っていた」

「……ふう、いん?」

耳慣れない言葉に、聞き返す。

「屋敷の周りに護符が貼ってあって、その中の世界を異空間に閉じ込めておくようなものだ。いや、詳しいことは俺にもわからぬが」

「護符……」

左手で護符を探る。

「ぃいやあっ」

目にした途端、眩暈がしそうなほど驚き、ぞっとして思わず恐怖の声をあげる。
直後、慌ててそれを床に振り払った。

懐に入れておいた護符が、真っ黒な墨で塗り潰されていたのだ。 

「姫?」

丁度、戦いを終えて土蔵から出てきた龍星は、驚いて毬に声を掛ける。

そして、ただ立ちつくしている雅之を見て
「医師を呼んできてくれ。
 姫は俺が連れてあがる」

と、指示を出した。
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