砂糖菓子より甘い恋1
「そんなにご心配でしたら、私が毬姫をお預かりいたしましょうか?」

湧き出てきた感情を全て飲み込んで、穏やかに龍星は話を切り出した。

タヌキは下卑た笑いを浮かべる。
これでやっかい払いできる、と、顔に書いてある。

酷い話だと、雅之はぎりぎりと拳を握り締めた。が、龍星は涼やかな顔で微笑んだ。

「では、医師と今後のことを相談してまいりますので、失礼いたします」

命にかかわるほどの大量出血というわけでなく、ほかには問題もないので、医師は、毬の身体を動かすことに異存は唱えなかった。

車の手配をすると、龍星と雅之は左大臣家を後にした。


外は夕暮れ時で、橙色に染まる空は幻想的なほど美しかった。

歩きながら、龍星は言う。

「雅之、反応があからさま過ぎて面白いぞ」

既に気持ちを切り替えたのか、楽しそうに龍星は言う。

「面白くないね。
 よりにもよって、毬殿のことを鬼呼ばわりなんて。

 最低だ」

雅之の方は苛立ちを微塵も隠そうとしない。

「左大臣には義理があるんじゃなかったか?」

「義理がなかったら、突き倒してる」

冗談を微塵も感じさせない真直ぐな瞳で雅之が言った。

「そうか。

 やはり、あんなタヌキに義理なんてなければよかったな」

言った龍星の口元からは、笑みが消えていた。

しばし、無言で歩いた後、雅之が唇を開く。

「今から、どうするんだ?」

「もちろん、姫には我が家で寝ていてもらうさ。

 なに、今の時期は花の精たちが良く働く。

 そこらへんの女房よりは、よっぽど腕はいい」
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