冴えない彼は私の許婚

「孫達が結婚するような年になるなんて、本当に早いですね?
私達も年を取るはずです。
それはそうと恭之助さん碧海の生け花の腕はどうです?」と、お祖母様は私の前の男性に聞く。

お祖母様が私の腕前を聞く?
マズイ! お教室に行ってない事がバレ…
え? 恭之助さん? あれ?

「はい、碧海さんは真面目にお教室にも通って来てくれますし、センスがとてもおありだと思います」と目の前の彼が答え、私を見て一瞬ニヤと笑った。

「えっえー!?」

葉瀬恭之助!?
私の前に座っているこの人が!?
あの冴えない彼!?
嘘っ!
このイケメンが、葉瀬恭之助だなんて…

「碧海なんて声出してるんですか?」
隣りに座っているお母様に叱られてしまった。

だって…
いつもボサボサ頭で根暗な人が、この人だなんて信じられない。
人違いじゃないの?
私の驚いている顔を見て、目の前の彼はまた右の口角を上げ笑った。
えーマジですか?…
そろそろ食事も終わりという頃、恭之助さんが席を立った。

「よし! 食事も終わった事だし、じぃ様もう良いだろ?
こんな肩苦しい席は疲れる。
この後は、碧海ちゃんとデートするから、俺達はこれで」と席を立ち、私の元へ来ると恭之助さんは私の腕を掴んで「行くよ?」と言う。

えっえっ急に雰囲気が変わった様な…
いや、いつものキャラじゃないじゃん!?
驚いている私に「早く行くぞ!?」と恭之助さんに急かされ、私は言われるがまま席を立ち、部屋を出ることとなった。

後ろからは家元の「コラ恭之助!」と呼ぶ声が聞こえたが、恭之助さんは気にするでもなく、私の手を引いて小走りで急ぐ。

ちょ、ちょっと何処へ?

エレベーターで地下駐車場まで下りると、恭之助さんは手元のキーを押す。
するとピッと音がしテールランプが点く車は、黒のアストンマーチン社の…
えっ! 007に出てくる車じゃない?
恭之助さんは、助手席の扉を開けると私に乗るように言う。

私は、ちょっと待ってと恭之助の手を払いのける。しかし、彼は待てないと言う。

「こんな所でグズグズして、邪魔が入っても困る。話は後だ早く乗れ!」と車に押し込まれてしまった。

確かに、お父様やお母様が追いかけて来るかもしれない。

何がどうなってるのか知りたい私は、仕方なく車に乗る事にした。恭之助さんは運転席に乗り込むと、エンジンをかけ発進させた。




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