『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
(現場では役に立ってると思ってたけど……実際にはあまり役に立たないものね……)


相手はたった一人の認知症高齢者。だけど、その存在はユニットで見ていた10人よりもはるかに重い。


理想通りだと思って婚姻届まで書いた人の祖母。
その相手は、想像していた以上にセレブリティーだったーーー。



一週間、おばあちゃんと二人で部屋に居ながら思った。
もしかしたらこのマンションは、世間で言うところの『億ション』なんじゃないか…って。

オートロックシステムの整った住環境といい、玄関ホールに備え付けられてるクロークといい、全てが豪華過ぎる。
引っ越したその日に感じていた違和感は、日増しに大きくなっていくばかり。

ここでずっと暮らすのなんか、庶民のあたしには耐えれない。
何もかもが高級過ぎて、息がしづらい。


加えて、さっきのお客様。


くるんくるんに巻かれた髪の毛がとても可愛かった。
メイクも服装もきちんとしていて、いかにもお嬢様みたいだった。


あーいう人ばかりを相手に仕事をするんだ…と、改めて思い知った。
そういう人が結婚する相手は、あたしじゃなくてもいいはず。


……久城さんにはもっと、相応しいお相手がいる。
淑やかで上品で、目の覚めるような美人が似合う。



(あたしではダメ…。荷が重い……)



ぎゅっと瞑った瞼の隙間から、粒のような涙が溢れた。


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