『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
話を聞いて…。
帰りの車の中で、中田さんはあたしの代わりに車を運転しながら話した。


「先程は驚きました。車から下りられた剛様が、いきなり停車している車に向かって歩きだしたので…」


マンション前の道端に停めてた私の車を不審に思ったのだろうかと考え、中田さんもついて下りたのだそうだ。


「遠目に見られてたのに、『やっぱり…!』と叫ばれたかと思うと走り寄って。窓を叩き始めた時はどうなさるのか…とオロオロしながら見てました」


年を取ると目も霞んで、おまけに雨降りで視界は余計に悪い。そんな状況にいる自分とは違って、よくあたしのことが判別できたなぁ…と、中田さんは久城さんの目の良さに感心していた。


「仁科さんとは高校時代の同級生で、以前からお見合いの相談を受けておりました。
自分がくっ付けたカップルの披露宴会場で剛様のことを知ったとかで、是非とも自分の姪とお見合いさせたい!と張りきってまして……」


あの叔母ならやりかねない話だと思って恥ずかしくなった。

おかげであたしは不似合いな方に気に入られて、あの高級すぎるマンションで暮らす羽目になった。



(でも、今はそれにも感謝してるけど……)


さっきの抱擁が胸をよぎった。

気持ちの通い合った瞬間を思い出して、きゅん…と胸の奥が熱くなった。



「…ホテルでのお見合いの後、剛様も今の甲本様と同じ様な顔をされていました」


< 168 / 249 >

この作品をシェア

pagetop