『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。

（あっ…でも、待って。確か仁科の叔母さんが言ってなかったっけ⁉︎ 『これ以上にない良縁だから、何が何でも失敗しない様にしなくちゃいけない…』とか何とか…）



「あ…あのね、メグ……」


話しかけたあたしの耳に、インターホンの鳴る音が聞こえた。
誰かが来たんだ…と分かって、慌てて電話を切った。


「また後で電話する。お客様みたいだから…」


オートロックのマンションだから、暗証番号を押すか指紋照合しないと居住空間には入れない。
部屋まで来るのは、確実にここが誰の部屋かを知ってる人。

久城さんは出かけてて留守。
だとしたら、来るのはご家族の誰かだと思う。



（ご、ご兄姉かな…）


五人兄弟の末っ子だとプロフィールには書いてあった。
住所も住まいも知ってる人がいるとしたら、兄弟か親戚くらいのものだろう。


急ぎ足で玄関に向かった。
シューズラックに備え付けられた鏡で身支度を確認して、ドキドキしながらドアを開けた。




「…………っ！」


ーーーあたしの目の前に立ってるのは、小１時間ほど前に出かけて行った『ゆる彼』だった。


「あ…あの……？」


どうしたの…？と、声を掛けるのでさえも躊躇われるような憔悴ぶりに、いったい何が起きたのか…と思った。




「愛理さん……誠に申し訳ないんだけど……」


ひょっとしたらセレブな人かもしれない久城さんが、丁寧な理を言った。


「この人のこと…今日から面倒見ることになったから……」