〔B L〕朽ちた無花果
「母子家庭だから、学費や生活に苦労してね。
母には随分と…迷惑をかけた。
だけど勉強は必死でやったよ。
お父さんが検事だったからかな、曲がったことが嫌いだったんだ、僕。
誰かを助けて、ありがとうって言われたら。
もしそれが毎日なら、どんなに幸せだろうって。
だから勉強して 、 この仕事に就いたんだよ。
患者さんに、ありがとう、おかげで元気になれましたって言われると、僕も幸せになれるんだ。」
そうやって僕は、他人の言葉の中に自分の存在意義を見いだしている。
狡いなぁ、僕は。
「…いつの間にか親じゃなくて自分のこと話してるって気付いてた?
アンタ話すり替えんのうまいな。
それとも天然?」
…無意識に、話を逸らしていた自分。
本当に、僕は弱い人間だ。
「ごっ、ごめん!
つい、夢中になっちゃって…」
佐那斗君は、気付いてしまうんだろうか。
嘘と本当のギリギリラインに。
「…別にいい。
アンタのこと、知りたかっただけだし…」
「え?」
「だってアンタ言っただろ、俺のこと話せばアンタのことも話すって。
俺人のこと知ってからじゃないと信用できねぇから。」
じゃあ、それって…!