嘘つきスノウ 〜上司は初恋の人でした〜
「わたしは有難いと思ってるから」
「大体さ、会社で婚約者候補とイチャイチャと!公私は分けろっ!」
背中に一筋、冷たい水が流れていくような気がする。
「・・・・・婚約者候補?」
「社長秘書の三条さんよ!会長のいちばんのお気に入り。綺麗で賢くておまけにあおば銀行の頭取の娘。同期でお互いよく知ってるし。もう少しで婚約が整うんやないかって秘書課では噂されてる」
口紅を塗ろうとした手が止まる。
「・・・・・・・・・・お似合いやねぇ」
無意識に唇から言葉がこぼれ落ちた。
「似合い過ぎてムカつくのよ!」
「そんな・・・・・」
自分の笑い声が遠くから聞こえる。
その後、奈々と話したことも仕事に戻っていつものように仕事をこなしたことも覚えていない。
ただ家に帰り着いた途端に涙が零れたことだけ覚えていた。
婚約者が決まりそうなのに、ウチに来ていても良いのだろうか。けれどわたしの口から「もう来ないでください」の一言がどうしても言えない。