冷たい舌
 義隆は手にしていた扇子を叩き降りそうになった。

 だが、そんな義隆に更に止めを刺す声がした。

「退けっ、忠尚」

 ドアの側に立っていた忠尚が遠くへ蹴り飛ばされる。

 車の下から法衣をはたきながら、顔を出したもう一人の息子に、義隆は気を失わんばかりになった。

「和尚……お前まで」

 考えなしで子供のようなところのある忠尚とは違い、和尚は短慮に走って、こんなことをするような子ではない
 ―はずだった。

 なんと春日に詫びようかと振り返ったが、彼は溜息を漏らしながら、透子のカウンタックに近寄る。

「本物だ……クアトロバルボーレですね」

 腰を屈めたりしながら、あの忌々しい赤い車を眺めている春日に、透子は手を打ち、笑いかける。

「もしかして、お好きなんですか!? カウンタック」

 跳ね上がった透子の声に、いやあ、僕もスーパーカー世代ですからね、と春日は嬉しそうに言った。

「この後ろの窓の近くに、でっぱりがあるのって、クアトロバルボーレと、後継者のアニバーサリーだけですよね。

 アニバーサリーはそれまでとは全体的に違いますから、絶対、クアトロバルボーレだと思ったんですよ」

「わあ、そんな詳しい人に会えて嬉しいですー。
 和尚たちとは話が合わなくて」

「……後ろに書いてあんじゃねえかよ、クアトロバルボーレって」

 いちゃもんをつける忠尚には構わずに透子たちは話が興(きょう)に乗ってきたようだった。
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